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なぜ今、自治体がメタバースに本気になるのか|バーチャル墨田の現場から

なぜ今、自治体がメタバースに本気になるのか|バーチャル墨田の現場から

2026年08月26日

メタバース
デジタルツイン
3DGS
バーチャル墨田
ものづくり支援
自治体DX
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m-Labは「墨田区プロトタイプ実証実験支援事業」に採択されました。

「メタバースって、もう終わった話じゃないんですか」
この2年、何度も言われました。実際、2021年から2022年にかけての熱狂は明確に冷めています。Metaが方針を転換し、多くの自治体プロジェクトが静かに終わりました。
にもかかわらず、いま自治体からの相談が増えています。 しかも以前と質が違います。「話題づくりのために何かやりたい」ではなく、「うちの事業者をどう外に見せるか」という具体的な課題として来る。
私たちは東京・墨田区で「バーチャル墨田」というプロジェクトを進めています。その現場から見えている、なぜ今なのかを書きます。

理由① 第一世代の答え合わせが、終わった

まず前提として、最初の波の結果は出ています。
韓国では17の広域自治体すべてがメタバース事業を立ち上げ、総額1,064億ウォンが投じられました。ソウル市の「メタバースソウル」は稼働から1年9ヶ月で閉鎖。他も多くが1〜2年で終了しています。
これは失敗の記録ですが、同時に貴重な教科書です。 分析でくり返し指摘されているのは、技術の問題ではなく、市民のニーズではなく行政側の野心から始まったという点でした。
つまり原因が特定されている。同じ設計をしなければいいという、かなり実用的な結論が手に入っています。
ゼロから賭けに出るフェーズと、失敗事例が公開されているフェーズは、意思決定の質がまったく違います。いま動く自治体は、後者にいます。

理由② 空間を作るコストが、桁で落ちた

これが技術面で一番大きい変化です。
第一世代のメタバースは、3Dモデルを人手でモデリングして作っていました。建物1棟、部屋1つを作るのにクリエーターの工数がかかる。だから街を1つ作るだけで数千万円規模になり、そして出来上がったものは「CGの街」でした。
3D Gaussian Splatting(3DGS)は、実写から空間を再現します。カメラで撮った映像から、光の反射や質感まで含めた空間データを生成する方式です。
加えて2026年に入って、処理を動かす環境のハードルも下がりました。以前は高性能なGPUを積んだ専用マシンと、それを扱える技術者を前提としていた工程が、クラウド側で処理できるようになっています。
つまり、街や工場を3D化するのに必要なものが、「クリエーターの工数」から「撮影と、その後の調整」に置き換わったということです。ここが桁で落ちた部分です。
もちろん、撮ってすぐ完成するわけではありません。品質を出すには条件を見極める必要があり、撮り直しも起きます。ただ、建物を一つずつ手で組み立てていた頃と比べれば、必要な工数はまったく別の水準になりました。
「実在の街や工場を、実際の見た目のまま3D化する」ことが、現実的な予算で可能になった。 これは第一世代にはなかった選択肢です。
CGで作った架空の街には、来る理由がありません。実在する工場の中には、あります。

理由③ 見るために、何も用意しなくてよくなった

これが、第一世代との一番わかりやすい違いだと思います。
以前のメタバースは、入口が重かった。専用のアプリをダウンロードして、アカウントを登録して、場合によってはVRのゴーグルが必要で、ようやく中に入れる。
自治体の事業として考えると、これはかなり厳しい前提です。見てほしい相手の多くは、そこまでやってくれません。 地域の事業者も、取引先の担当者も、住民も、「アプリを入れてください」の時点で半分以上が離れます。
いまは、URLをタップするだけです。スマホやパソコンのブラウザで、そのまま開く。アプリも登録もゴーグルもいりません。LINEで送っても、メールに貼っても、名刺にQRコードを載せても、同じように開きます。
この差は、体感で言うと「行ってもらう」から「渡すだけ」に変わったくらいの違いがあります。
私たちが実務で一番手をかけているのも、実はここです。3Dのデータはそのままだと非常に重く、スマホでは表示される前に閉じられてしまいます。そこを軽くして、数秒で開く状態にする。技術的に立派なものを作ることより、指1本で開くことのほうが、成果に直結します。
第一世代の自治体メタバースが伸びなかった理由として「話題性が続かなかった」と語られがちですが、現場で見ていた印象は少し違います。そもそも、入ってもらう前に諦められていたのではないかと思っています。

理由④ 目的が「PRしたい」から「産業を支えたい」に変わった

これは技術ではなく、自治体側の課題の変化です。
第一世代の自治体メタバースは、ほぼ観光PRか広報でした。名所を再現し、イベントを開き、来訪者数を報告する。
いま来る相談は違います。地域の事業者——特に製造業や職人の仕事——を、どう外の世界に見せるか、という話が中心です。
背景は分かりやすい。担い手が減っていて、取引先も高齢化していて、新規の引き合いが入る仕組みがない。そして事業者側の課題を聞くと、だいたい同じ言葉が返ってきます。
「いいものは作ってる。でも、知られていない」
技術はある。品質もある。ただ、それを見せる手段がない。ホームページはあっても工場の中は写真数枚で、取引先は紹介経由がほとんど。
これは行政の野心ではなく、事業者の実際の課題です。課題があるところには、人が来る理由があります。 第一世代との決定的な違いはここだと思っています。

だから、墨田ではこう設計しました

バーチャル墨田は、区内のものづくり企業が集まるバーチャルの街です。金属加工、木工・家具、ガラス・化学、皮革・繊維、食品・飲食。実在する事業者が並びます。
設計で意識したのは3点です。
主役を、街ではなく企業にしました。 観光名所を再現するのではなく、企業のページと工場の中身が中心にある。ユーザーが来る理由を、街の景観ではなく「この会社の技術を見たい」に置いています。
ゴールを、リアルな出会いに置きました。 街を歩く → 気になる企業をクリック → 工場の中を3Dで見学 → 問い合わせ・見積 → 商談・工場見学。バーチャル空間はゴールではなく、4番目までの通路です。評価されるのは、実際に人が動いたかどうかです。
実証期間の参加費を0円にしました。 通常の出展参加費は年間150,000円ですが、実証期間中は無償にしています。まだ成果を証明できていないものに、先にお金を払わせるべきではないと考えたからです。町工場の販促予算は大きくありません。価値を証明してから請求する、という順番が正しいと思っています。
(工場そのものを高精度でスキャンして3D空間に再現するデジタルツイン制作は、実費のかかる制作なので有償です。1工場あたり300,000円で、金額は最初から公開しています。)

本気かどうかは、追う指標で分かります

最後に、判別の方法を1つ書いておきます。
自治体メタバースの企画書を見たとき、成果指標が何になっているかを見てください。
* アクセス数・来訪者数 が指標なら、第一世代の設計です。初年度は広報で数字を作れますが、2年目に伸ばす手段がありません
* 問い合わせ件数、そしてその先の商談・成約 が指標なら、第二世代です
私たちがバーチャル墨田で追っているのは、次の3つです。
* 企業ページから届いた問い合わせ・見積依頼の件数
* そのうち実際の工場見学・商談に進んだ件数
* そして、採用の応募につながった件数
3つ目を入れているのは、ものづくり企業の課題が販路だけではないからです。「求人を出しても人が来ない」という声を、販路の相談と同じくらい聞きます。
そして採用は、工場を見せることと相性がいい。求人票では「金属加工」の3文字しか伝わりませんが、実際の現場を歩いて見られれば、どんな機械があり、どんな人が働き、どんな空気の場所なのかが伝わります。応募する前に職場を見られるというのは、応募する側にとってかなり大きいことです。
つまり、一度撮った工場の記録が、販路開拓と採用の両方に効く。同じ資産を二度使えるというのは、予算の限られた事業者にとって重要な点だと思っています。
この3つの数字が出なければ、このプロジェクトは成功していません。0円で参加していただいている以上、そこを曖昧にする理由もありません。
メタバースが終わったのではなく、目的を持たないメタバースが終わっただけだった——というのが、いまの実感です。
そして目的を持つための材料は、第一世代の失敗と、この2年の技術の進歩で、だいぶ揃いました。


バーチャル墨田への出展、デジタルツイン制作についてのご相談を承っています。実証期間中の出展参加費は0円です。

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