株式会社m-Lab 代表取締役・村上進也
「凄い人なのに、凄い感じを全く出しませんよね」
ある方から、そんな言葉をもらいました。
褒めてもらったはずなのですが、少し考え込んでしまいました。思い当たるところがあったからです。
私は昔から、自分ができることを必要以上に大きく見せるのが得意ではありません。何かを説明するときも、まず難しさや制約から話し、期待値を低めに置く。いわば、いつも低空飛行から話し始める癖があります。
技術を、相手より上に立つために使いたくなかった
背景には、過剰に「凄そうな人」と見られることや、知識で相手にマウントを取ることへの抵抗があります。
技術用語を並べ、分からない相手を置き去りにしたり、質問しづらい空気を作ったりする。技術を盾に威圧するようなエンジニアの振る舞いには、同じエンジニアとして強い違和感があります。
本来、技術は目の前の問題を解決するためのものです。詳しい人が偉くなるためのものではありません。
だから私は、できるだけ普通の言葉で話し、分からないことは分からないと言い、派手な言い切りを避けてきました。その姿勢自体は、これからも変えるつもりはありません。
しかし、できることを隠しすぎるのも問題だった
一方で、今回の言葉をきっかけに、別の問題に気づきました。
こちらが何をできるのか伝わっていなければ、仕事の相談は来ません。それだけなら自社の機会損失ですが、本当は解決できたはずの課題を、お客様が相談できないまま抱え続けることにもなります。
「売り込まないこと」と「判断材料を出さないこと」は、同じではありません。
謙虚でいることと、仕事の実力や過程を見えなくすることも別です。
m-Labでは、Web開発、AIを使った業務自動化、3D Gaussian Splattingを活用した空間制作、新規事業の検証などを行っています。しかし完成したものだけを静かに納品していると、その間に何を考え、どこまで検証し、どのように失敗を避けているのかは外から見えません。
できることを大きく見せるのではなく、実際に取り組んだ過程と結果を、そのまま見せればよいのではないか。そう考えるようになりました。
夏休みの代わりに、90日間の自由研究を始めた
今年は、夏休みらしい夏休みを取れませんでした。
それならいっそ、自由研究のような実験を始めてみよう。情報発信も兼ねて、自分たちの技術や仕事の進め方を、結果が出る前から公開してみよう。
こうして始めたのが、「AIひとり会社」です。
AIエージェントを事業運営の中心に置き、人間の作業時間をできるだけ抑えながら、90日間で累計10万円の売上を作れるか検証しています。
AIに文章を書かせて終わる実験ではありません。事業案の検討、募集ページの制作、計測、Xやnoteでの発信、営業候補の探索、問い合わせフォーム営業、実行ログや台帳の管理まで、実際の仕事として動かしています。
実行環境にはOpenClawを使い、ローカルで動かすQwenとCodexを仕事に応じて使い分けています。ブラウザやCLIをAIの手足にし、台帳、定期実行、監視、人間の承認を組み合わせています。
うまくいったことだけでなく、止まったことも公開する
この実験で大切にしているのは、成功したように見せることではありません。
営業送信の仕組み自体は動いていても、適格な候補の供給が枯渇し、件数が増えなくなったことがありました。監視処理が動いていることと、事業が前進していることは別でした。
問い合わせフォーム営業では、200件を超えて送信しても、確認できた反応はまだ0件です。一方、発信を続けたnoteでは、知人から最初の100円の売上が生まれました。
華やかな数字ではありません。それでも、ゼロから始めた実験で「誰かがお金を払う」という変化が起きたこと、関係性のない相手への営業と、日々の情報発信では反応が違ったことは、次の判断材料になります。
結果が悪ければ、悪いまま記録する。止まった理由が分かれば、仕組みを直す。AIを魔法のように語るのではなく、事業の現場でどこまで使え、どこで人間が責任を持つべきかを数字で確認しています。
見せたいのは「凄さ」ではなく、相談できる材料
この取り組みを始めても、私は自分を過剰に大きく見せたいとは思っていません。
目指しているのは、「この課題ならm-Labへ相談できそうだ」と判断できる材料を増やすことです。
・AIを導入したいが、単発のチャット利用から先へ進めない
・定型業務を自動化したいが、止まったときの運用まで設計できていない
・Web、3D空間、データ計測を組み合わせた新しいサービスを検証したい
・アイデアはあるが、まず小さく作って需要を確かめたい
こうした課題は、技術名だけを並べても解決しません。目的、現場の制約、成功条件、止める条件、人間が判断する境界まで一緒に設計する必要があります。
自分たちの過程を公開することで、同じような課題を抱える方が、相談する前に私たちの考え方や仕事の進め方を確認できるようにしたいと思っています。
低空飛行のまま、見える範囲を広げていく
大きく見せるために発信するのではありません。
低空飛行から話し始める自分の癖は、そのままでよいと思っています。ただし、低く飛ぶことと、姿を見せないことは違います。
何ができるのか。何がまだできないのか。どんな判断をし、どこで止まり、どう立て直したのか。
これからは、そうした過程を隠さずに残していきます。
「凄い感じ」を演出する代わりに、実際に動いたものと数字を見せる。それが、私なりの情報発信です。
AIひとり会社の実験は、まだ途中です。うまくいったことも、いかなかったことも、引き続き公開していきます。
株式会社m-Lab 代表取締役
村上進也
AIひとり会社の連載はnoteでも公開しています。

