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そのAI開発、本当に大丈夫?――作る前の経営判断と、変わり始めたお金の流れ

そのAI開発、本当に大丈夫?――作る前の経営判断と、変わり始めたお金の流れ

2026年11月01日

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「それ、AIで作れますよ」

そんな提案を受けたり、自分で考えたりする機会が増えました。実際、AIによって、これまで専門的な知識や大きな予算が必要だった開発・制作に、多くの人が取り組めるようになっています。

ただ、企業として立ち止まって考えたいことがあります。

作れるようになったことと、作るべきであること。そして、安全に使い続けられることは、それぞれ別です。

さらに私は、個々の開発判断の先で、社会全体のお金の流れが変わり始めていることにも危機感を持っています。

本記事では、AIで開発する前に確認したい経営上の論点と、「買う・頼む」が「自分で作る」に置き換わる先の変化を考えます。調査で確認できる事実と、私自身の見解・今後の見通しを分けてお伝えします。

本記事は、Guild Origin代表のJパパさんとのコラボ記事です。AIを使って実際にツールを作ったJパパさんと、それを事業や社会の視点から考える私が、それぞれの立場から、作る楽しさと使い続けるための課題を考えます。

Jパパさんの記事「AIでシステム開発が身近に。その先に待つ『サ終しまくる未来』」では、試作品を作った経験から、公開後の費用や問い合わせ対応、サービスを維持する難しさについて書かれています。[記事URLは公開時に追加]



1.そのシステム、すでに使えるサービスはありませんか?

開発に着手する前に、まず確認したいのは「解決したい課題を満たす既存サービスがないか」です。業務そのものを見直せば、システムを作らずに済むこともあります。

AIを使えば、試作品は短時間でできるかもしれません。しかし、試作品が動いた時点では、企業が継続利用するための仕事はまだ残っています。

・要件の整理と、実際の業務に合っているかの確認
・テスト、権限管理、セキュリティ対策
・インフラ、バックアップ、監視の整備
・障害対応、問い合わせ対応、仕様変更への追従
・担当者の引き継ぎ、将来の移行・廃止

比較すべきなのは、既存サービスの月額料金と、AIの利用料だけではありません。同じ業務要件と安全性を前提に、例えば3年間使う場合の総費用で比べる必要があります。

総費用=導入・開発費+利用料・インフラ費+社内の運用工数+保守・セキュリティ費+移行・廃止費

社員がAIに指示する時間、生成されたコードを確認する時間、エラーの調査に使う時間も、会社にとってはコストです。「月額料金がもったいない」と自作したシステムに、毎月何時間の社員の時間を使っているでしょうか。

既存サービスの利用料には、機能に加えて、契約範囲に応じた更新やサポートの対価も含まれます。一方で、値上げ、サービス終了、データ移行の難しさも確認が必要です。既存サービスと内製の両方を、同じ条件で評価することが大切です。


2.AIが作っても、安全性の確認と事故対応は残る

画面が表示され、入力したデータを保存できる。それだけで、業務に安心して使えるとは限りません。

他の利用者の情報を閲覧できないか。管理者以外がデータを書き換えられないか。認証情報が漏れていないか。バックアップから実際に復旧できるか。こうした確認には、コードが一見動くこととは別の視点が必要です。

IPAの「2024年度中小企業等実態調査」は、全国の中小企業4,191社を対象に実施されました。過去3期にサイバーインシデントが発生した企業における被害額は平均約73万円、復旧までに要した期間は平均5.8日と報告されています。

これはAI開発に限定した数字ではありませんが、システムを運用する企業が備えるべき損失と停止時間を考える材料になります。
[出典:IPA「2024年度中小企業等実態調査結果」] https://www.ipa.go.jp/pressrelease/2024/press20250214.html

導入前には、少なくとも次のことを決めておきたいところです。
・誰がリリース前の安全性を確認するのか
・障害や情報漏えいが疑われたとき、誰が停止・復旧を判断するのか
・社内、顧客、取引先への連絡を誰が担うのか
・外部サービスや委託先との契約で、対応範囲と責任分担がどう定められているか
「AIが作った」という説明だけでは、これらへの答えにはなりません。
また、開発の道具としてAIを使う場合と、完成したシステムが運用中もAIを呼び出す場合は分けて考える必要があります。後者では、誤回答、モデルの変更、APIの停止や料金改定といった依存先の変化も、運用計画に含めます。


3.その担当者が明日退職しても、使い続けられますか?

AIで作ったシステムでも、属人化は起こります。何のために作ったのか、どのような仕様なのか、どこにデータがあるのかを、担当者しか知らない状態は危険です。

「同じAIに聞けば直せるはず」という期待も、引き継ぎの仕組みにはなりません。修正が適切かを判断し、既存業務への影響を確認する人が必要だからです。

・ソースコード、仕様、構築・復旧手順が会社の管理下にあるか
・クラウド、ドメイン、認証情報が個人アカウントに閉じていないか
・担当者以外が変更・復旧できるか
・保守の担当と、毎年の予算が確保されているか
・別の仕組みへ移るときに、データを取り出せるか

既存サービスは、顧客からの売上を原資に運営されます。もちろん、それで存続が保証されるわけではありません。一方、社内システムも、保守の予算と担当を確保しなければ維持できません。外部への支払いを減らした後、社内でその役割を引き受ける準備はできているでしょうか。


4.「安く作れた」の前に、経理との確認も必要です

AIを使った内製でも、社員の人件費や関連費用が発生します。それらをどう集計し、費用処理・資産計上・償却するかは、経理部門と確認すべき事項です。

国税庁の解説では、企業会計上、自社利用ソフトウェアの制作費は、将来の収益獲得や費用削減の確実性などに応じて資産計上・費用処理が判断されることが説明されています。

税務上の取り扱いとの違いにも注意が必要です。

AIを使ったことだけで処理が決まるわけではありません。
[出典:国税庁「ソフトウェアの取得価額に算入しないことができる費用」の解説] https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/hojin/210625/pdf/02.pdf

開発費が小さく見えることと、経営管理の手間がなくなることは別です。個別の処理は、自社の経理担当者や税理士などに確認してください。


5.「買う・頼む」が「自分で作る」に変わり始めている

ここからは、私自身が感じている、もう少し大きな危機感についてです。

例えば、私が実際に会ったこともある知人のJパパさんは、ChatGPTで作ったアクセサリーを、UnityやBlenderを使わずに「cluster」へアップロードし、登録・装着までできたと投稿しています。
これは、身近なところで制作と利用のハードルが変わっている例です。
[実験を紹介した本人のX投稿] https://x.com/Jpapa821/status/2114855220274676034

なお、Jパパさんの例は自分の作品を自分で使うための工夫で、他人の作品や仕事を置き換えたものではありません。以下は、この変化が社会全体に広がったときに私が考えていることです。
この一例だけで、市場全体の衰退が証明されるわけではありません。ただ、私はここに、さまざまな業界へ広がる変化の入口を見ています。

システム開発では、これまで専門企業へ依頼していた仕事を、AIを使って自社で行う選択肢が広がっています。今後は、AIによる設計と3Dプリンターを組み合わせることで、部品や雑貨など、ものづくりの一部にも同じ変化が広がっていくでしょう。実用品には材料、精度、耐久性、安全性の確認が必要ですが、「買う前に、自分で作る」という選択肢が増える可能性があります。

「買うくらいなら、作ればいい」「頼むくらいなら、AIにやらせればいい」
供給する側では、AIによって制作量を増やせる。一方、買う側にも自作する選択肢が生まれる。コンテンツなら、量産された作品が買い手の注意を奪い合い、価格競争が強まることも考えられます。作れるものが増えるほど、作って売ることで生計を立てることが難しくなる。私は、そんな矛盾を懸念しています。


そのAIの便利さは、誰が積み上げた価値の上にあるのか。

声の世界でも、すでに問題が表面化しています。声優有志による「NOMORE無断生成AI」は、本人の許諾なく声が生成・公開・販売されることに問題を提起しています。公式声明は、新しい技術の恩恵を認めながら、未来の文化も視野に入れた議論とルール作りを呼びかけています。
[出典:NOMORE無断生成AI 公式声明] https://nomore-mudan.com/

私がここで考えたいのは、長年かけて磨かれた技術や、その人が築いた信用から価値が生まれているのに、本人への依頼や対価を伴わず、別の誰かが収益を得られてしまう構造です。

使う側の「安く済んだ」の裏で、価値を育ててきた人に、お金が戻らなくなる。
私は、この構造が広がれば、次の技術や作品、人材を育てるための経済的な土台まで弱くなるのではないかと懸念しています。AIで何を代替できるかと同時に、その価値を生んだ人へどう対価を還元するかを考える必要があります。


6.そのコスト削減の先で、お金は誰に流れるのか

外注費や購入代金が減っても、お金が一切使われなくなるわけではありません。その一部は、AIの利用料やトークン代へと移っていきます。

経済産業省が2025年に公表した「デジタル経済レポート」では、2024年のデジタル関連収支は約6.85兆円の赤字とされています。この数字はAIだけを対象としたものではなく、コンピュータサービスや著作権等使用料などを含みます。海外へのデジタル関連支払いを考える背景として捉えるべき数字です。
[出典:経済産業省「デジタル経済レポート」図4] https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/statistics/digital_economy_report/digital_economy_report.pdf

また、海外の大手フリーランスプラットフォームを分析した研究では、ChatGPT登場後8か月以内に、文章作成・コーディングなど自動化されやすい仕事の募集が、比較対象の仕事に対して21%減少したと報告されています。これは特定市場の結果であり、日本のIT業界全体に同じ割合を当てはめることはできません。それでも、仕事の受発注に変化が生じていることを示す材料です。
[出典:Demirciほか「Who Is AI Replacing?」] https://www.econstor.eu/bitstream/10419/305518/1/cesifo1_wp11276.pdf

一社、一人にとって、支出を減らすのは合理的な選択です。しかし、自社にとっての外注費は、誰かの売上であり、そこで働く人の給料でもあります。その所得は、次の消費や投資につながっています。

その支払いが減り、代わりに海外のAI基盤への支払いが増えるなら、国内の企業や人の間を巡っていたお金の流れはどうなるのでしょうか。国内サービスを使っていても、その裏側で海外の基盤を利用している場合があり、契約先の国籍だけでは判断できません。

仕事が減り、事業が立ち行かなくなり、企業がなくなる。その先で失うのは、発注先だけではありません。私たちの商品やサービスを買ってくれる、未来の顧客かもしれません。

私は、一社一社の合理的なコスト削減が積み重なった先で、社会全体の稼ぐ力と購買力が細っていくことを懸念しています。コンテンツの売買手数料や制作の受発注を収益の柱とする事業にとっては、従来のマネタイズの終焉の始まりになり得る、とも感じています。

もちろん、AIは新しい仕事や市場を生む可能性もあります。ILOとNASKの2025年の共同研究も、世界の雇用の約4分の1が生成AIの影響を受けうる一方、最も起こりそうなのは仕事の全面的な代替よりも仕事内容の変化だと説明しています。経済全体の衰退が確定したと主張するつもりはありません。

それでも、「買う・頼む」から「自分で作る」への変化は、すでに身近で起きています。もう始まっている。その変化を、私たちは削減額だけで評価してよいのでしょうか。


7.作る前に、使い続ける責任と次の投資を考える

独自の業務が競争力の源泉であり、既存サービスでは要件を満たせず、保守を担う体制もある。そうした場合に、AIを活用した内製が合理的な選択になることはあるでしょう。

その判断をする前に、次の点を確認したいと思います。
・解決すべき課題と、得たい成果は明確か
・既存サービスや業務の見直しと、総費用で比較したか
・安全性の確認、事故対応、継続的な保守の担当と予算があるか
・担当者が変わっても運用でき、必要なら別の仕組みへ移れるか
・会計処理と、導入後の費用対効果を確認する方法を決めたか
・削減できた費用を、人材育成や新しい顧客価値、次の事業への投資につなげているか

AIによって「作れること」は増えました。だからこそ、企業には「何を作るべきか」「誰が維持するのか」「生まれた余力を何に使うのか」を判断する力が求められます。

そのAI開発、本当に大丈夫ですか。作れるかどうかだけでなく、使い続ける責任と、その先のお金の流れまで考えていますか。

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「既存サービスと内製、どちらを選ぶべきか」「AIで作った仕組みを、このまま業務で使ってよいのか」。そんな判断に迷っている方は、お気軽にご相談ください。
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